イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる

……トオルの憂い



俺は、今、必死にパソコンと向かい合っている。

加恋?

加恋は軽く食事を済ませ、いつものゆったりと時間をかけるバスタイムに入った。

やっと一人になれた俺は、加恋が妊娠したという恐ろしい事実に、打ちのめされそうになっていた。

あの加恋の切羽詰まった告白の時は、何とか大人の男を演じきれた。
でも、内心は、かなりのパニック状態だ。

だって、俺という人間は、家族とか子供とか、ましてや家庭円満とか、そういう一般的な幸福というものに全く興味がない人間だから。

俺は、はっきり言って、加恋ちゃんだけでいい。
加恋だけでよかったのに、加恋のお腹に子供ができたなんて…

女の体の不思議な仕組みに愕然とする。
快楽と愛情だけを追い求める単純明快な男の性は、子供のできる過程をあまり考えない。


……あ~、マジか。


もう百回近くは呟いているこの言葉を、飽きもせずにもう一回呟いた。

でも、できてしまったのならしょうがない。
加恋に危険が及ばないよう、完璧で最高の環境を整えるしかない。

俺は知り合いの医療情報マーケティングをしている人間に、最高級の産婦人科を紹介してもらった。

医師の腕も、設備も環境も何一つ問題ない。
あとは、俺の心一つだ。

心の底から、赤ちゃんを受け入れよう…
それは、加恋のためなんだから…

っていうか、こんな風に自分に言い聞かせる事自体、俺は最低の下の下のお子ちゃまなんだよな…




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