イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる



俺はやっぱり人間として、まだできていない。
その小さな丸いものを見て、そこから赤ちゃんへと想像を飛ばせない。

なんじゃこりゃ??

それが俺の正直な感想だった。

がしかし、そんな事口が裂けても言えない。


「ありがとうございます。
赤ちゃんまで見れて嬉しいです…」


もごもごと言う俺を見て、加恋は笑っている。
きっと何を言っても何を聞いても嬉しいのだろう。

俺は赤ちゃんの存在よりも、その加恋の笑顔の方が嬉しかった。

診察室を出た俺は、誰も居ない待合室で加恋を強く抱きしめた。
こんなにも妊娠を喜ぶ加恋を見ていると、俺も何だか幸せな気分になる。


「トオルさん、ありがとう…
私に赤ちゃんを授けてくれて」


加恋はそんな事で泣いている。
そんな事を思う俺は、俺に全く父性が芽生えていない証拠だ。


「今からの10か月、大切に大切に生活していくんだぞ。
俺も最大限でサポートするから、分かった?」


妊娠という思いがけない出来事は、俺をまた新しい世界へと導き出す。

でも、きっとまだ、スタートラインにも立っていない。
早く立たなくちゃ…
だって、加恋はもう遥か遠くの方を走っているのに。

俺の未知との遭遇は、もう時間を刻み始めた。
加恋と同じ位の大切な存在がこの世に現れる前までに、俺も成長しなきゃならない。


あ~、でも、俺はやっぱり加恋が大好き…
加恋にキスをしながら、再確認をする。


そんな俺って、父親になれるのだろうか……




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