誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

 誰とも付き合ったことがないという虎太郎の言葉が、閑に『あること』を気づかせてしまったのだ。

 そう、あの夜――。小春が『初めて』だったことに。
 本当はなかったことにしていいようなことではないということに――。

(大変……! なんとか、なんとか言い訳を……!)

 小春は焦った。

「いや、あのっ……」

 だが動揺のあまり、うまく嘘をひねり出せない。元々口下手だ。
 ただ、顔を赤くしたり、青くするだけだった。

 そんな様子を見て、閑は確信を強くしたらしい。
 唇を引き結んで、微かに震えている。

(ど、ど、どうしよう……!)

 閑が怒っているのが分かる。

 けれどその怒りは当然だろう。完全に自分が悪い。

「じゃあな。また電話するわ」

 虎太郎はそのままがらりと戸を開けて出て行く。

「えっ、嘘っ、この状態で私を置いていくの……!? おっ、お兄ちゃん、ちょっと……!」

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