誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
黒いスーツと、ネイビーブルーのスーツ。
おそらくネイビーのほうが閑で、黒いほうがこの事務所の所長である、槇だろう。
ふたりとも手足が長いので、完全に三人掛けのソファーでもはみ出しているが、顔を覆うようにして新聞や、雑誌をかぶっているので、仮眠を取っているのかもしれない。
「あの……これ、ここに、置いておきますね……」
小春は後ずさりながら、持っていた紙袋をそーっと、入り口のカウンターの上に置き、すぐそばにあったメモ帳とペンに、さらさらとメモを残す。
「なかもと食堂からの……差し入れです……っと。よし」
ふたりを起さないように静かに出ようと思ったのだが――。
「うわあぁっ……!」
突然、静寂を切り裂く悲鳴に似た叫び声があがって、
「きゃーっ!」
それに驚いた小春も、反射的に叫んでしまっていた。
「うわーっ、って、なにっ!? うわっ……! いってえっ……!」
小春の声に驚いたらしい声が事務所内に響き、ガタガタと激しい音がした。