誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

 腕まくりをしていると、

「小春ちゃん」

 と、ノータイではあるが、スーツ姿の閑がリビングにひょっこり姿を現した。

「あ、神尾さん。今からご出勤ですか?」
「あ、うん。そうなんだけど……朝から掃除させちゃってごめん」

 閑は少しだけ恥ずかしそうにそう言い、小春の真正面に回り込んでくる。

「朝からも何も……それが私と神尾さんのルームシェアの条件ではないですか」

 この部屋をきれいにして、住みやすくする。
 その代わり、小春はしばらくの間、住む場所を心配しなくてよくなるのだ。

 だから気にすることはないと、言いたかったのだが、閑は妙にまじめな顔で、首を振る。

「だけど、それだけじゃない」
「それだけじゃない?」

 ではほかに何があるのだろう。

 意味が分からず、小春は首をかしげる。閑はそんな小春を見て、クスッと笑い、それからゴホンと咳払いをした後、小春をじっと見つめた。

「小春ちゃんが、イヤイヤだと意味がないんだ。俺と一緒に住んでよかったって、思ってほしい」
「え?」

 その柔らかな笑顔に、小春の心臓がどきりと跳ねる。


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