誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

 先日、日用雑貨を買いに行くという名目のデートでは、『嘘でも恋人と思われたくない』と言われたし、今日だって、『閑さん、早く帰るために、お仕事持って帰って来てますよね? 無理されてるんじゃないですか? 私は大丈夫なので、早く帰ってこなくていいですよ』と、優しく諭されてしまった。

 仕事をおろそかにしているつもりは微塵もないが、帰って小春の作る美味しいごはんが食べたかったのは事実でーー。そして彼女の言うとおり、持ち帰りの仕事が増えていたのは本当だったので、ぐうの音も出なかった。

 きっと、深夜まで起きている自分が、小春を心配させているのだろう。

(いや、もしかしたら、いつまでも起きてて、うるさいって思われてるかもしれない……だとしたら最悪だな……)

 基本、能天気だといわれがちな閑だが、ついそんなことを考えてしまう。
 このままでは、あっという間に年の瀬になり、年が明けて、落ち着いたころには、『仕事が決まったので出て行きます』と言われそうだ。その可能性は十分にある。

(いったいどうしたら……)

「はぁ……」
「なんだ、悩みごとか。よし、俺に話してみろ」

 二度目のため息をついた閑に、ワクワクした口調で、瑞樹が顔を近づけてきた。

「ワクワクすんのやめろ」
「いや、するだろう。あの、神尾閑が凹むなんて、めったにない。面白いじゃないか」

 瑞樹は額に落ちる黒髪をさらりとかき上げて、ニヤリと笑った。


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