天使の扉
部屋に戻った綾音はベッドに倒れこんだ。

どういうこと?そのかをりって子が私の前世?
大体前世って本当にあるの?

「いじめられて自殺…」

綾音には考えられなかった。

いじめって別世界のことのように感じていたから。

クラスでもそんなことは今まで無かったし、聞いたことも無かった。



…寝るのが怖い…
いつか、いじめられるところも見るんだろうか?

それは計り知れない恐怖だった。

自分がされているように感じるっていうことだよね…?

あのクラスの人達に?
でもとても明るいクラスのように感じた。
いじめなんて起こることがないように…

でも両親がこんな嘘をつくとも思えない。

実は知っていた。父の左手首に大きな切り傷があること。
でも、知らないフリをしていた。聞いたらいけないと子供心に思っていたからだ。

それが病気になったときに死のうとしたときの?

でも死んだ人が助けてくれたってどういうことだろう?幽霊になって出てきたってことかな?
お母さんが8階から落ちたときも助けてくれたって言ってた。

もう、訳がわからない。

「助けて…」

もう夢を見ないことを祈るばかりだった。


始まったばかりの中学校生活はすでに絶望へと変わっていた。




母は父にコーヒーを手渡した。

「ありがとう」

父は受け取った。

「綾音はこれから2人分の記憶を持つのかしら…」

不安そうに母が言う。

「そうか…そういうことか…でも、あの事件は辛すぎる。また味あわせてしまうのは避けたい」

「でも、どうしたらいいのかしら…」



かをりの人生がどういう最悪な形で終わったのか知っていた2人は何としても記憶が蘇るのを避けたかった。

でも方法はわからない。


そもそも亡くなったあとの記憶も戻ればまだ救われるんだろうが、その保障はどこにもない。

どうやって天国へと旅立ったのか。2人を救ってくれたことも綾音には分かって欲しかった。
でも、今全部を綾音に言うことは心の負担を考えると言うことはできない。

かなり略して説明したがそれでもあれだけ混乱してしまったのだ。

できれば2人の過去は話さずにいたかった。

娘に心配と衝撃を与えることはしたくなかった。
でも、いずれ夢に見るかもしれない。当事者として。

2人にも正解が分からなかった。
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