Piano~ピアノ~
Piano:好きになってもらいたい!③
 急いで控室に戻り自分の携帯に早速、叶さんのメアドを入力。中林叶と入れて、ちょっと考える。

 どこか硬い感じがしたので止めて、愛しの叶さんと入力した。俺の携帯に、彼女の名前が入るなんて……

「おーい、打ち上げ行くぞ。いつまで待たせる気なんだ、コノヤロー!」

 ポワーンとしていると、背後から声をかけられた。振り返ると、まさやんが扉から顔を出し、こっちを見て驚いた顔をする。

「ゲッ……何だその締まりのない、だらしない顔……」

「名前だけじゃなく、メアドも教えてもらえた」

 ニヤニヤしながら、携帯を見せつけてやった。

「それで?」

「ん?」

「きちんと告白するなり、押し倒すなりしたのか?」

 イライラしながらまさやんが聞いてきたのだが、口を引き結ぶしかない。メアドをもらった時点で、すっかり舞い上がってしまって、それ所じゃなかったのだ。

「押し倒すなんて、まさやんじゃあるまいし……」

「話を誤魔化すな!」

 ズカズカ歩いて来て、俺の頬をつねりあげる。

「イタイ!」

「痛いじゃねぇよ、折角微力ながら協力してやったのに、何だよこの無様な姿」

 キリキリとつねる力が強くなる。本気で痛い。

「まさやんだっれ、なかなか告白れきなくて、影から見ちゅめるのが、せぇいっぱいのくしぇに」

「あ゛あ゛!? 俺はそこから、動き出してからは早いんだ。告白だって、きちんと鮮やかに」

「押し倒すっ! 痛っ!」

 言い終わらない内に、拳骨が飛んできた。それが見事にクリーンヒット、激痛が頭を襲う。

「まったく……どうしようもない奴だな」

「痛いよ、まさやん」

 殴られた場所を、涙目しながら撫でさするしかない。

「折角のチャンスを、棒に振りやがって」

「ゴメン……メアドもらって、すっかり舞い上がっちゃって」

 今度はしょぼくれている俺の背中を、いつものようにバシンと叩く。あまりの痛さに息が止まった。

「まあ、これで終わったわけじゃないしな。それなりに頑張れ」

 呆れ顔のまさやんに、笑顔で返す。

「ん……頑張る」

 手にしていた携帯を握りしめる。早速、メール送ったら迷惑かな。

「一分待ってやる」

「何?」

 首を傾げて、まさやんの顔を見た。

「けん坊の事だ、早速お礼のメールする気だろ。一分だけ待ってやるから早くしろよ。外にいる先輩方は、俺が何とかするから」

 そう言って、控室から出て行った。

 ジーン……持つべき者は、まさやん。そんな優しい幼馴染の思いやりに感謝しつつ、急いでメールを打つ。

『先程はわざわざライブを見に来て頂き、有り難うございます。とても嬉しかったです。髪型も叶さんが言う通りに短くカットしたんですが、どうでしたか? 賢一』

 よし、送信っと。

 ああドキドキする。何だろこの緊張感――って、余韻に浸ってる場合じゃない。急いで外にいかなきゃ。

「タイムリミット、ギリギリセーフだな」

 壁にもたれ掛かった、まさやんが待っていた。

「先輩方は先に、居酒屋へ行ってもらったから」

「そう、良かった……」

 胸を撫で下ろした時に、ジャンパーに入れてた携帯が震えた。慌てて画面を見て着信履歴をチェック、叶さんからだった。

 ワクワクしながら、メールを見てみると――

『思っていたより、髪型似合ってたね』

 この一文のみ……髪型誉められたのは嬉しいのだが、もう少し何らかのリアクションが欲しかった。

 しょんぼりしている、俺の手元を覗きこむまさやん。

「シンプルイズベスト。誉められたんなら、良しとしないと」

 肩をポンポン叩いて、勇気付けてくれる。

 用事があるって言ってた中で、返信してくれたんだから良しとしよう。いつでも連絡出来る、間柄になったんだから……。
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