Piano~ピアノ~
Piano:水戸史哉side
 妻の綾とは結婚五年目、現在別居真っ只中。出会った時はあんなに愛し合えたのに、なぜこんなことになってしまったのだろうか。

 同期の女性の中でも、ひと際目立つ清楚で美人だった綾。彼女を狙うのは同期の男だけでなく、先輩方からも声をかけられていた。
 
 ――まさに高嶺の花――

 だけど並み居る強敵の中から、なぜだか俺が選ばれる。

 いつもそばにいる綺麗な彼女の笑顔を見ることができて、とても幸せだった。結婚してからもこの幸せを維持すべく、俺はひたすら頑張った。

 帰宅してから自宅に帰ると、真っ先に出迎えてくれる綾の笑顔に心が癒された。

 でもこの幸せは、長くは続かない。

 結婚四年目のある日、いつも通りに帰宅したら家の中が暗かった。訝しく思いながら家の中に入ってみたところ、人の気配がまったくない状態だった。

 リビングの電気をつけて、愛しい人の名前を呼んでみる。

「綾?」

 静まり返ったリビングの中で返事はなく、テーブルの上に手紙が一枚置いてあった。かなり嫌な予感がする。

『史哉、私ちょっと実家に帰る。あなたと一緒に暮らして最初はとても楽しかった。だけど最近は帰りが遅いし、休みの日も仕事ばかり。正直寂しかったけど、私のために頑張ってるのが分かっていたから、ワガママが言い出せなくて。
 史哉の事が嫌いになったわけじゃないけど、少し距離を置きたいです。ごめんね、これは私のワガママだと思って、そっとしておいて下さい 綾』

 寂しそうにしていたのは、どことなく気が付いていた。なのに放置していた俺……。もう少し、かまってあげれば良かったと後悔しても遅いのか。

 仕事を優先し、家庭を投げ出した罰があたった。

 ガンッとリビングの壁を殴る。静寂な部屋には、何も返ってこない。

「綾……」

 俺に笑いかける、あの優しい微笑みも返ってこない。心にぽっかりと穴が空いた。





 その後しばらくしてから、彼女の実家に向かった。会うことは拒否されなかったのだが、頑として自宅に帰るのを拒まれた。

「ひとりで家にいても、つまらないものよ。史哉には分からないわ」

 そう言って、やるせなさそうに呟く。

「これからはなるべく早く帰るようにするし、休みの日も」

「そんなに無理しないでよ。出世頭の史哉を選んだ私が悪いんだもの。忙しいあなたに、これ以上の無理を強要したくないわ。それにねこっちにいると、勝手に友達がやってきて暇をつぶせるしいいの」

 話は平行線を辿ったままで、前にも後ろにも進まず。だけど何とかしたくて、暇を見繕っては綾の実家に足しげく通った。

 この状態が一年も続いた――
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