Piano~ピアノ~
Piano:水戸史哉side③
*** 

 叶とは会社で顔を合わせる機会が少なくなってきていた。会ったとしても、挨拶するくらいで終わってしまう。

 何とか時間を作って会うのは、もっぱら俺の自宅で夜遅く。バラバラに出社して、自宅で落ち合っていた。

 綾の実家にも同じように休みの日に時間を作って、会いに行っていた。

 一年前と何ら変わらない行動――彼女は俺にいつも通りの笑顔を見せる。俺も彼女に変わらず笑いかける。

 不倫しているとは思われないだろう。変な自信があった、バレるわけがないと……。

 宙ぶらりんな生活が、このまま一年間続いた。

 一年も経つとお互いの役職が動く。以前よりも会えない日々が続いていた。出張や会議の毎日。スケジュールも合わなくて、自宅でも会えないまま――

 そんなある日、珍しく会社に電話がかかってくる。

「仕事中ごめんなさい、綾です」

「ああ、大丈夫だ。どうした?」

 少し沈黙の後に、

「今日久しぶりに家に帰ってみたんです……。妙に小綺麗でびっくりしました」

「そうか?」

「でも……床に長い髪の毛があって――」

 内心ギクリとした。

「たまに社員で宅呑みするからなぁ。その時のものじゃないか?」

「そうですか……ごめんなさい。くだらないことで電話してしまって」

「いや、誤解を招かせて済まない」

 そう言って電話を切った。

 顔面蒼白とはこのことだ。……ドキドキが止まらなかった。
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