エンドレスビート
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「海里せんぱぁい」

2つ年下とは思えないナメた態度でこちらに話しかけてくるのは美術部の後輩、近藤莉穂。

控えめに言ってかなりの美人だが、その鈴のなるような声と可愛らしい笑顔に騙されてはいけない。
その実、とんでもない腹黒女なのである。

「先輩、次のコンクールに出す絵のテーマ決めました?」


「なぜ俺の進捗状況をお前に教えなければいけないのか」


「いいじゃないですかぁ、決まってないなら相談乗りますよ。そろそろ取り掛からないと間に合わないでしょ?」


決まっていないならとか言いながら、こいつは俺がテーマ決めに悩んでるのをわかってて聞いているのだ。
そしてそろそろコンクールが迫ってきているため、テーマごときで悩んでいる暇はないのも事実である。本当に手に負えない。


「で、お前ごときが相談に乗ってくれるって?」

「まぁ相談というか、提案です。私を描いたらどうですか?」


海里先輩は人物画の方が得意でしょ?でも美術部以外の友達がほとんどいない先輩のモデルになってくれる人がすぐ見つかるとは思えませんし、美術部の部員は自分の作品で手一杯。
でも幸い私は自分の作品は大体出来上がってるのでモデルになる余裕があります。それに昔から親にモデル代わりにされてたので、ポーズとるのは慣れてます。
悪くない提案じゃないですか?


莉穂は一気にそう言うと、ニコニコとこちらを見つめてくる。かなり失礼なことを言われている気がするが、口の悪い自分に友達が少ないのは事実なので言い返せない。ムカつく。
それに、正直人物画が描きたくて、でもモデルがいないという問題に直面していたことも事実である。クソッ。
しかもこいつの父親は国内外で活躍する著名な画家だ。実際に莉穂をモデルにしたデッサンもこっそり莉穂に見せてもらったことがあるから、モデル慣れしているのも本当だろう。


「チッ、仕方ねぇなぁ。描いてやるよ」


2つ下の後輩に完全に見透かされているのが情けない。

わぁい、とゆるりと笑う莉穂を見て本当に思う。
…こいつと話すのは心臓に悪い。


年上の余裕を見せようと、鳴り止まない鼓動をなんとか隠す。


「ふふっ、将来有望な海里先輩のモデルになれるなんて嬉しいです」


そもそも俺には莉穂ほどの絵画の才能はないのだが、こいつは何故かいつもそんなことを言って俺に構ってくる。

そして俺がこいつの笑顔に弱いこともお見通しの上でからかってくるのだ。


「はいはい、じゃあよろしく頼みますよモデルさん」

「はいっ!」


嬉しそうな最上級の笑顔を向けられて

俺はため息をつくフリをして、赤くなった顔を背けた―――。






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