ヤルことからはじめよう
サクセスストーリー始動!(小野寺目線)
***

 残すところあと数週間で、期日のクリスマスである。正直あれから一向に進展なし。というか手応えすら感じられなかった。

 女のコがドキドキする行動(頭を撫でるとか、急に抱き締めるとか甘い囁き等々)を、絶妙なタイミングでしてるはずなのに、顔色一つ変えずに何してくれてるのアンタという視線を、華麗に飛ばしてくれる。

 それは俺の想いに冷水を浴びせるような感じで、帰宅後自宅で必ずやさぐれていた。

「残りあと、わずかだっていうのに……」

 会社の自分のデスクにつっぷしたままシャープペンシルを机に突き刺して、ずっとカチカチしていた。

 出てくる芯は押さえられているので当然出るワケもなく、それは彼女に対する自分の気持ちと同じだろう。

 まったく、ポーカーフェイスが上手すぎだぜ。

「誰かさんみたいに、レーザービームを飛ばしてくれた方が分かりやすいっつぅの」

「レーザービームは、先程からバンバン飛ばしてましたが? いつまで休憩しているんですか?」

 頭を紙の束で結構強く頭を叩かれた。横を向くと鎌田課長が傍らに立っていて、じっと睨みをきかせていた。全く気配を感じなかったぞ。

「ただいま小野寺は留守にしておりますので、伝言は目の前にいる鎌田さんにお願いします」

「俺の奥さんをメモ代わりに使うな。馬鹿!」

 また頭を紙の束で殴る。さっきから一体、何なんだ。

「緊急に、君宛の仕事を預かりました」

「何なんですか、ヤル気0の俺に向かって」

「ヤル気100%のときに出していた企画書の1枚が、奇跡的に通ってしまったんですよ」

 そう言って、俺のデスクにバサッと書類を置いた。

「下手な鉄砲、数打ちゃ作戦が功を奏したようです。明日までに、これを直しにかけて下さい」

 俺はしょうがなく体を起こして、書類にパラパラ目を通した。

「これ、最近提出したヤツだ。途中で何を書いてるんだか分からなくなって、誤魔化したんだっけ」

 その頃は亜理砂さんとの進展を夢見て、ウキウキしてた。それが仕事にも表れていたように思える。

「君の言ってたサクセスストーリーが、一歩近づいたんじゃないんですか?」

「恋愛と仕事の両方が手に入らないと、意味がないんですけどね……」

「それでも片方手に入りかけてるんだから、良しと考えればいいのでは?」

 山田さんといい鎌田課長といい、さりげなくサクっと傷つくことを言うよな。俺はまだ恋愛を諦めたワケじゃないやい。

「俺、我が侭なんで、両方を手に入れないと気が済まないんですっ!」

 気合いを入れるべく、立ち上がって伸びをした。

「明日までに、やっつければいいんですね?」

 気合いの入った俺の顔を見て、片側の口角を上げて微笑む鎌田課長。

「君とは何度も、社内で朝を迎えましたからね。そうならない様に頑張って下さい」

「は……?」

「夜明けのコーヒーの苦さが、身体に沁みました」

 爽やかにスゴいことを言ってのけた鎌田課長に、周りの社員から白い視線が――もう慣れちゃったけどさ。

「正仁さん、社内でそういう失言はいかがなものかと思いますよ」

 このタイミングで、突っ込んでくれた奥さん。

「どこが失言なんです?」

 ワケが分からんという表情をした鎌田課長をスルーして、済まなそうに俺を見る。

「小野寺先輩すみません。正仁さんには自宅でレディコミ読ませて、勉強させておきますから」

 何でこのタイミングに、レディコミが出てくる?

 鎌田夫妻に関わると俺のサクセスストーリーが、どんどん汚されていく気がする。

 泣きたくなるのを堪えながら書類を小脇に抱えて、部署を後にした。
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