アスカラール
「あ、高崎さん…」

生まれつきだと言う茶色の猫っ毛に黒のストライプのスーツをモデルのように着こなしている長身の男が美都の前にいた。

男の名前は高崎俊彦(タカザキトシヒコ)、34歳。

彼は美都が勤めている広告代理店『高崎エージェンシー』の跡取り息子――いわゆる、御曹司である――だ。

2年前の春まで同じ部署で仕事をしていたので、美都は彼のことをよく知っていた。

端正な顔立ちと人当たりがよく、そのうえ仕事もできるため、多くの社員たちから慕われている。

「どうも、お久しぶりです」

ペコリと会釈をした美都に、
「お久しぶりです、美都さん」

高崎はあいさつを返した。

「先程は粗相をお見せしちゃってすみません」

そう謝った美都に、
「美都さん、そこははにかむところですよ」

高崎が言った。
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