身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい

 ……レーナ!!

 グッと拳を握り締める。一縷の望みを賭け、俺の思い違いであって欲しいと願っていた。

 けれど現実は無情だ。少年の口から語られる男の特徴はザイード王に合致し、馬車が走り去った方向は王宮に通じている。

 目の前が真っ黒に塗りつぶされる。止めどない怒りに全身が戦慄く。握り締めた手のひらに爪がギリギリと食い込むが、痛みとすら認識されない。

「ブロード様、お待たせしました」

 アボットが腕にパンパンの紙袋を抱えて戻り、その呼びかけで、真っ黒な怒りの渦に沈みかけた思考が浮上した。

「……アボット、ご苦労だった」

 なんとかひと呼吸吐き出して、怒りで滾り狂う胸を落ち着ける。

 固く握りしめていた拳を解き、アボットの腕から紙袋を受け取った。


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