龍使いの歌姫 ~幼龍の章~
あの日と同じような光景。

レインは弓矢を構え、矢を弦に引っ掻けて後ろへと引っ張る。

「弓で俺に勝てるとでも?」

「………」

レインは答えず、竜騎士を見る。

「竜騎士様に加勢しろ」

「動くな」

神官が部下を動かそうとした時、竜騎士がギロリと神官達を睨んだ。

そのため、足を止める。

「この娘は、俺が相手をする。お前達は手を出すな」

「「…………」」

神官達が大人しくなると、竜騎士はレインの動きを探る。

「………っ!」

レインが矢を放つと、竜騎士は大剣で矢を叩き落とした。

そして、レインへと距離を詰めると、リュック目掛けて大剣を振り下ろす。

だが、レインは咄嗟に後ろへ飛び退くと、矢を素早く弦に引っ掻け、斜め上へと放った。

「どこを狙っている」

「貴方の頭の上ですよ」

「!何―」

竜騎士の上から、丸太が降ってきた。

レインはその隙に村の外へと走る。

最初の一撃は、当てるつもりではなく、竜騎士にこちらに来てもらうために放った。

広場に向かったのも、元々は神官達に広場に吊るされていた丸太を落とすためだったのだが、竜騎士が現れたので、竜騎士に丸太を落とした。

村の外へと出ると、そのまま真っ直ぐ走る。

出来るだけ距離を稼がなければ。追い付かれないくらいに遠く。

すると、足元を見ていなかったせいで、レインは転がっていた大きめの石につまずいて転ぶ。

「痛っ!」

『ピギィ!』

リュックのボタンが外れ、ティアが転げ落ちる。

「……ティア」

レインはティアを抱き上げると、痛む膝を押さえながら立ち上がる。

『ピギィ?』

「大……丈夫。ティアは守るから……」

ジンジンと膝が痛い。布越しでも、血が肌を伝っているのが分かる。

それでも、レインはティアを抱き抱え歩いた。

思ったよりも酷く擦りむいたのか、歩く度に痛みが走る。だが、それでも歯を食いしばって歩く。

逃げなれけば。ここで、殺されるわけにはいかない。
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