龍使いの歌姫 ~幼龍の章~
恐らく、自分が会った男。

竜騎士を名乗りながら、竜や龍を殺すもの。

「その人が、何でアルを?」

「相棒を殺そうとしたから、追い払うつもりで反撃した。そしたら、見事に返り討ちにされた。以上だ」

忌々しそうに顔を歪めるアルを見ながら、レインは目を伏せる。

「……」

『レイン?』

ティアはレインの膝に乗り、二人の話を大人しく聞いていたようだが、レインが目を伏せると、顔をあげて覗きこむ。

「大丈夫だよ。ティア」

『ピギィ!』

「そいつは、お前に心を開いてるな」

アルの言葉に、レインは顔をあげてアルを見る。

「もうそいつは、お前の言うことしか聞かない。生まれる前ならともかく、生まれてしまった後は、僕が何をしても無駄だろう。一度心を通わせた相手に、龍は従うんだ。……つまり、お前はそいつだけの龍使いということになる」

龍使いという言葉に、レインは不思議そうにアルを見た。

「龍使いって?」

「龍と心を通わし、龍と共に生きる者のことだ。僕も龍使いを名乗っているが、どちらかと言えば、龍の谷や龍を守護するのが役割だな」

アルの言葉に、レインは考え込む。

龍使いという言葉、その意味を聞いて、何故か胸の奥がざわついた。

初めて聞いた言葉の筈なのに、知っていたような気もする。不思議な気持ちだ。

「……だから、もうお前からそいつを取り上げたりしない」

「!……ありがとう」

ぶっきらぼうだが、アルの言葉の意味に気付き、レインはお礼を言った。

「………」

またすぐそっぽを向いてしまったが。

『レイン!』

ティアはレインの膝から降り、裾をぐいぐいと引っ張る。

どうやら、そろそろ行こうということだろうが、レインはちらっとアルへと視線を移す。

足を怪我してるわけではないので、歩くのに支障は無いだろうが、無理は禁物だ。

「……問題ない」

レインの視線の意味が分かったのか、アルはそれだけ言って立ち上がる。

「そろそろ、あいつも来る頃だろうしな」

「あいつ?誰?」

「ゼイル。……僕の弟で、相棒だ」

その一言で、アルと一緒にいた、銀色の龍を思い出す。

「私にとってのティアと、同じなんだね」

ゼイルという名のアルの相棒。銀色の鱗を持った、とても綺麗な龍。

「弟」と言った時のアルの顔は、レインを見るレオンの眼差しと良く似ている。

親のような、暖かい眼差し。

「そうだ!アルは龍の谷から来たんなら、龍の谷がどこにあるのかを知ってるんでしょう?」

「そうだな」

「私とレインを、龍の谷まで連れていってくれないかな?案内してくれるだけでも良いんだけど」

「………はぁ」

何故かため息を吐かれた。
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