雪の果てに、催花雨は告ぐ。
雪の果てに、催花雨は告ぐ。

春は嫌いだ。
始まりを告げるかのように咲き誇る桜も、心に押し入ってくるような柔い風も、鼻を擽る菜の花の香りも。
温かいくせに、何もしてくれない春は嫌い。

「おはよう、ゆかり。今日から新学期ね。…お願いだから、今年は“普通の子”と同じように、ちゃんとして頂戴ね」

毎朝リビングで、呪文のように同じことばかり言ってくる母も嫌い。
“普通の子”になれなかった私に興味を示さない父も嫌い。
“普通の子”じゃない私を蔑むような目で見てくる妹も嫌い。
言ってしまえば、家族が嫌い。

「ちゃんと話を聞いているの?ゆかり」

私を引き留めようとしてくる母の手を振り払い、朝食を食べずに玄関へと向かう。
繰り返される母の小言が背中に突き刺さる。
逃げるように足をローファーに突っ込み、勢いよく扉を開け、外の世界へと身を投じた。
扉が閉まる寸前、私の耳へと母のお決まりの言葉が届く。

「どうして、普通の子になってくれないのっ…!?」

鋭利な刃物と化した、言葉の暴力。
数えることも億劫になるほど、その言葉を言われてきたわたしはもう傷つきはしない。
ただ、心の内で問い返すのだ。

“普通の子”って、何?
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