髪は切れない、けど君のためなら……
「はぁ……今日はあれから話せなかったな……」

 放課後。

 四月の暖かさで、ワイワイしている人たちの間をスルスル横切りながら呟いた。

 頭のなかで、今日の出来事を思い出しながら歩いていたら、家についていた。


「…ただいま」

「おかえりー!葵くん、帰ってすぐで悪いんだけど、シャンプーとリンスを詰め替えてもらってもいい?」

「…わかった」


 僕の家は理髪店で、中学生の頃から手伝っているからなれたものだ。

 いつもの場所にある、業務用の詰め替えパックから、ボトルに液を移し変えながら父さんの手元を見る。

 ショキショキと音をたてながら、お客の髪を整えていく。

 僕は詰め替えを終えても、父さんの手元を見続ける。

「切り終えましたよ、じゃあ髪を洗いましょうか」

 父さんはそう言うと、僕に「よろしく」とウインクしながら言って去っていった。
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