独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 とまあ、これはフィリーネの考えたところが大半であるけれど、令嬢達はすっかり夢中になったみたいだった。

「それで、あなた、アーベル様を射止めたのね!」
「べ、別にそういうわけじゃ……」

 別に、アーベルを射止めたかったわけではないし、射止めたわけでもないし。

(……でも、これって彼にとっては好都合なのかしら?)

 なんとなく、フィリーネがこうやって囲まれていたらアーベルに向かう令嬢は少なくなってくるような気がする。

「さっそく仕立屋に注文に行かないと」
「あ、でも……」

 今回は売り込みが目的なので、そんなにたくさんの数を持ってきているわけでもない。
 国にいる父親に手紙を書いて、少し送ってもらった方がいいだろうか。

「フィリーネ、ここにいたのか。お前が来なかったから、つまらなかったぞ」

 令嬢達の相手に飽きたのか、アーベルがこちらへとやってくる。押し殺した歓声が上がったのには、フィリーネは気づかなかったふりをした。

 こうして、いつまでもアーベルと一緒にいられたらいいのに。もう少しで、王太子妃選びの期間が終わってしまうのもきちんと理解していた。
 
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