独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「……は?」

 お小遣いという言葉に、アーベルは動きを止めた。それから、じーっとフィリーネの手元をのぞき込んでくる。

「いいお小遣いってどういうことだ」
「ご存知だと思いますけど、ユリスタロ湖って、観光の名所なんですよ。だから、レースで飾ったハンカチとか店先に置いておくと、夏の間はよく売れるんです。いくら、ユリスタロ王国が涼しいとはいえ、夏はやっぱり汗かきますもんね」
「……だからって、俺と一緒にいる時までそういうことをする必要はないだろう」

 アーベル相手に、とんでもない口をきいていたことに気づいて、一瞬青ざめた。だが、彼とはあくまでも対等の契約相手なのだ。

「アーベル様とただ座ってても間が持たないので、これは見逃していただけると助かります」
「お前な、他にもう少し言い方があるだろうが……」

 アーベルが、額に手を当てて嘆息した。

 その間も、フィリーネの手は流れるように動いている。周囲をコットンで編んだレースでぐるりと囲んだハンカチは、ユリスタロ湖近くの商店では大人気商品なのだ。
 フィリーネも冬から春にかけてせっせと作っては、商店に売りに行っていた。王女殿下なのにということはこの際追及してはいけない。なにせ、貧乏国なのだ。自分のお小遣いは自分で稼がなければ。
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