記憶のかけら
拉致
不自然な姿勢で馬に乗せられ、山道を揺られている。

後ろ手に縛られて歩く西宮さんの怪我が心配で、

背中を目で追う。



先頭は、

目つきの厭らしい男。

明かり取りの提灯を持ち、

意地悪く西宮さんを急かしている。

夜道は暗く、周りに人家は見えない。

リーダーの男が周囲に注意を払いながら、速足で続く。

一番最後に気の弱そうな男が、

私の乗っている馬を引いている。



男たちの話から、

山をいくつか超えた一族の者だと想像できた。

櫻正宗を攻めるため、

有馬山の裏側を拠点にひそかに準備していた。



一月ほど前から、

櫻正宗の領地に数名で潜入し、

襲撃の機会を狙っていたようだ。

あと何名かはまだ港街に残っている。



騒動を起こし街を混乱に陥らせ、

どさくさに紛れて脱出し、

私たちと合流する予定らしい。



漏れ聞こえる話の内容に愕然とする。



この状況では、

何もできないくせに、

私のせいで西宮さんが捕らわれた今、

ただの足手まといでしかないのに、

みんなの心配をしている自分に苦笑。



でも、

早く逃げなきゃ。

みんなに知らせなきゃ。

間に合う?

間に合わせる!

考えろ!

考えて、真由美!

自分に精いっぱいの檄を飛ばす。



以前、有馬から港に向かって歩いた道とは違う。

山道がだんだん細くなってきて、

馬ではこれ以上進めなくなってきた。



先頭を行く男と西宮さんが何かを言っている。

なんだろう??



西宮さんがこの近くの農家に

馬と食料を交換するよう、交渉すると話している。

男と西宮さんが戻るまで、

束の間の休息をとることになる。



私は、馬から降ろされた。

その時ワザとらしく、よろめき倒れこむ。

倒れながらせき込み、苦しそうなふりをする。

打ったところが痛い。

目に涙を浮かべながら、

気の弱い男をすがるように見る。



急に、気の弱そうな男が、オロオロしだす。。

リーダーの男に向かって、

女子がかわいそうだとか、

猿ぐつわが苦しそうだとか、

手に紐が食い込んで痛そうだとか、

頼みもしないのに、

うるさく頼みこんでくれている。

あまりのしつこさに、

「好きにしろ」とリーダーが言う。



猿ぐつわと縄は解かれた。



気の弱い男は、

自分の要求が認められたことに、

善いことをしたという自己満足に、

ほっとした顔をしている。



私は私で、

やってみるもんだと内心舌を出しながら、

痛むひざと腰を気にして、

前髪をかき上げ、地面に座る。

どうしたらいいのか、必死で考える。



リーダーの男がじっと様子を見ていた。



前触れもなく、ピアスを、耳を引張られた。

「よく見せろ。

確かに見たこともない代物だ。

どうなっているんだ、、、」



「!!!」

汚い手で触らないで!

声には出さず、睨み返す。



「答えろ!」とリーダー。



「18金台座のサファイアのピアス」と単語を並べる。



「???」

18金?ぴあす?何を言っている?

言葉にならず不思議そうに見返してくる。

「どうやってつけているのだ?」と聞く。



「耳に穴を開けて」と短く答える。



考え込むリーダー。

「着物も変わっておった。あの生地はなんだ?」と聞く。



「!!!!!」

あんたか!変態は! 

黙り込む私。



そういえば・・・

「親にもらった身体を傷つけるなんて。」

母親に叱られたなぁ。と不意に思い出す。

周りの友人たちがピアスをしても、

なんとなく抵抗があってずっと出来ずにいた。



いつからだろう、

結婚を急かされだすようになって、

会えば、話すほどに気まずく感じて、

なんとなく両親と距離を置くようになった。

家を出て、自活するようになったのも、そんな時だった。



親の考えに縛られている自分が嫌になって、

ピアスの穴をあけた。

開けてみると思ったほどたいしたことなくて、

世界が変わるほどでもなかったけど、

少し気持ちが軽くなったっけ。



全く役にも立たないことを、

この場で思い出してどうする。

しっかりしろ!真由美。



男と西宮さんは戻ってこなかった。

「遅い。」

リーダーが気の弱そうな男に話している。



確かに、ちょっと遅い。

大丈夫だろうか。



< 24 / 53 >

この作品をシェア

pagetop