記憶のかけら
鬼火
何日も寝不足が続いて、

お肌は最悪なはずなのに

意外と調子が良いのはなぜだろう。



こちらの世界の食べ物が、

添加物なしの完全無農薬だからかなぁ?



敵が攻めてくるかもしれない時に、

考えることはたかが知れてる。



よく降った雨が止みはじめ、

久しぶりにお舘さまを見た。

援軍をたくさん引き連れてきて、

次々と指示を出している。

近くにはとても寄りつけない。



やっと話す機会が来た。

開口一番

「無事でよかった」と目を細めて笑いながら、

嬉しそうに言うお舘さま。

本当に心配していてくれていたんだと嬉しくなる。



数日間、いろんな事があって、

伝えたい事がたくさんありすぎて、

すぐには言葉にならない。

それに、私も会えたことが嬉しい。

なんでだろう。

急に、湧き上がる気持ちに驚く。



なにかあったわけでもないのに。

気が付くと目がお舘さまを探している。

目が合うと、そらしてしまう。

お舘さまの声に耳を集中させて、

様子をうかがってる私。

何やってんだか。

まるで恋してるみたいじゃない?!



雨が止み、ため池を決壊させた。

お舘さまや側近の人達が、

水が流れていく様子を眺めている。



作戦通りに土手が次々壊れて、

村人達も興奮して眺めている。



水が高い所から低い所へ流れていく。

二日間降った雨が、

さらに水量を増やして、

下流めざし一直線に流れていく。



遠くに、敵が散り散りばらばらに、

逃げていくのが見える。



少しづつ水かさを増した水たまりは、

やがて大きな池になった。

道路は冠水したり、

ぬかるみとなって、

まともに進めない状態となった。



水が引くまで、何日もかかるだろう。



夜になって、

残党が、うごめいていると知らせが来た。



準備した丸めた布を持って、

年寄りも子ども達も、

作戦通り山の中に散らばった。

ここのところの雨で木々は湿って、

山が燃えることはない。



暗闇の中に、ぽっと火がともる。

あっちにも、こっちにも、

鬼火のように火がともっていく。



人海戦術で、丸めたぼろ切れを槍の先につけて、

燃やして揺らしているだけのことが、

真っ暗闇で見ると震えあがってしまう。

まるで、人魂のようで。



松明にも見えるように、

ぼろ切れを燃やし、

木の棒の両端にぶら下げて、

男も女も行ったり来たりした。

実際の兵士より多く見せるために。



真由美は、車のクラクションを鳴らした。

山にこだまするよう、何度も何度も。

音は山を越え、想像以上の反響音だった。



昼間でも、夜間でも、

急にクラクションが鳴ったら、かなり怖い。

まして、この時代に自動車はないし、

訳のわからない音が、暗闇の火勢が、

人間の想像力と恐怖心を増してくれる。



「目に見えないものほど怖いものはない」

御影さんがつぶやいた。



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