艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~


たった数秒、視線を交わしただけのその人を、私はすっかり忘れてしまっていたわけだけれど、それも当然だと思う。


年に一度ちょっとだけ覗き見る、上流階級の世界。
そこに住まう、綺麗な顔立ちの王子様のような人。


まさかそんな人と、今後関わり合いになるなどと思いもしないではないか。
しかもあろうことか、婚約者としてだなんて。


あの日と同じ、晴れた佳き日の日本庭園。
真赤な薔薇の花束と指輪が入った四角い箱を手に、冷たく感じるほど綺麗な微笑を浮かべ私の目の前に立っている。


「今日から君は俺のものだ」


これが政略結婚でなければ、私は夢見るような気持ちで彼のセリフを聞いただろうか。
けれど、現実には夢見心地には程遠い。


乾坤一擲《けんこんいってき》。
のるかそるか。


挑むように彼を上目に睨みながら、私はその手を取ったのだった。


< 2 / 417 >

この作品をシェア

pagetop