Jewels
紅玉が、ちらりとこちらを見た。
翠玉の真剣な眼差しから逃げるように、すぐに視線を落とす。


「…彼、素直でしょう。わたくしへの想いがどんなものかは、解っているつもり。」

「それなら!」


翠玉が悔しそうに声をあげる。


「一度や二度ならいいと思うわ。琥珀に夢を見せてあげるのも。だけど、兄様に相手にしてもらえないからって琥珀を利用するのは…可哀想よ…。」


翠玉の声は、哀しげにトーンを下げて行った。
窓の外の闇、見えないものを見極めるかのように紅玉は遠くを見つめてつぶやく。


「そうね、卑怯だとは思う。だけど…わたくし、金剛様といるときは辛いだけ。琥珀といるときの方が楽しいわ。」


翠玉はその一言の語調で察した。

紅玉は優しい琥珀に、惹かれかけているのかもしれない。

それぞれをあるべき位置に戻そうと働きかけた結果が、あらぬ方向に動いている。
そんな予感がした。

翠玉は祈るように紅玉に問いかける。


「姉様は?姉様のお気持ちはどうなの!?兄様のことが好きなんでしょう!?諦めてしまうの!?」


紅玉は、ぴくりと反応すると、ベッドから立ち上がり翠玉に視線を向けた。
哀しい、深く哀しい瞳をしていた。


「愛されない苦しみがどんなものか、翠玉、お前に解って?」


そういうと紅玉はそのまま翠玉を部屋から閉め出してしまった。

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