Voice -君の声だけが聴こえる-
 美由紀の言葉を信じるとすれば、犯人は男性である可能性が高い。目撃情報など、犯人が男性であるとする何か根拠らしいものを警察がまだ掴んでいないのなら、この美由紀の証言で捜査を前進させることができそうだが、いかんせん死者の証言だ。先ほどの紗友と同様、捜査員を信じさせる手段がない。今の段階ですでに警察が犯人を男性と絞って捜査していることを願うのみだ。

 はぁ、と無意識のうちにため息が漏れ出た。

 いくら死者の声が聴こえるからといって、すぐさま犯人を見つけられるわけじゃない。美由紀が犯人を目撃していれば話は変わってくるのだが、今手元にある情報だけでは手がかりなど何もないに等しいわけで。

 ――やっぱり、話してみるしかないよな。

 脳裏にある一人の男の顔が浮かぶ。自然と、詠斗の表情が曇った。

 できることなら頼りたくない相手だけれど、今回ばかりはその手を借りないわけにはいかないようだ。それに、さっき美由紀に「相談してみます」と言ってしまったし。

 もう一度、今度は自分の意思で深くため息をつく。

 帰りの電車で一度連絡を入れてみるか、と気の進まない心をどうにか前向きにさせ、詠斗はいつの間にか黒板いっぱいにびっしりと書かれていた数式をノートに写し始めた。
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