FF~フォルテシモ~
***

(朝比奈さんに他の男に紹介するとか、何て情けない……)

 次の日弁当を食べるために、いつものように空き会議室に向かっていた。

 午前中行われた重役会をぼんやりと思い出す。会議の内容はいつも通りだったのだが終了後、会長が皆に声をかけた。

「うちの孫娘27歳にもなるんだが、彼氏がいないらしいんだ。誰か良いのがいたら、名前をあげてくれないか?」

 浮き足立つ重役達――自分のところにいる精鋭なる若者を提供して、点数を稼ごうというのが明らかだった。

(絶対に言えない。昨日その孫娘に告白して、相思相愛になりました)

 なぁんて冗談のようなホントの話を、色めき立つこの場では口が裂けても言えない。

「うちにいる今川は顔はいいんだが、逆にそれが難癖なんだよなぁ」

 専務が言う今川は俺の親戚筋にあたる男で、ウチの会社にはコネで入社しているのである。

「でも会長のお嬢さんと並んだら、さぞかし良い絵になりますね」

 どこかのアホが、専務にゴマを摩る。

「そういえば今川部長のところに、営業成績が優秀な若い部下がいますよね? 確か最近まで朝比奈さんがその彼に毎日会いに来てたとか、何とか噂になっていた」

 どこかのバカが、くだらない噂話を持ち出した。これは俺に会いに来てたからだとは、絶対言えない――さて、どうしたものか。

「それは部下の山田課長です。朝比奈さんとは同期で、顔馴染みなんです」

「優男って感じの人だよね。この間社内の独身を集めて合コンをセッティングしたり、リーダーシップを発揮していましたよ」

 ほほぅと、重役の皆さんが感嘆の声をあげる。他にも数名の名前があがった。

「捜してみれば、宝物は埋まってるワケだね。今、あがった名前の者はチェックしたので、後ほど連絡するから宜しく」

 そして会議は、お開きになったのである。

「まぁ山田くんが選ばれるとは限らないからな……」

 山田くん以外の精鋭なる若者も、非常に気になる。おじさんの心は、非常に複雑――。

 ぼーっと考えてたら、後ろから背中を叩かれて驚いた。

「今川部長、こんにちは!」

 その生き生きした朝比奈さんの笑顔を見ただけで、悩みが一瞬でぶっ飛んだ。俺ってばゲンキンだなぁ。

 そんな彼女を引き連れて、会議室に向かったのだった。
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