FF~フォルテシモ~
救出
***

「今川部長、どこに行ってるんだろ?」

 結局、今川部長本人から質問の答えをもらえなかった。あのあと、私が山田くんと無駄な口論を繰り広げていると。

「君からの質問に答えるよりも、大切な仕事が残っているんです。申し訳ないがお引き取り下さい」

 さっきの慌てふためいた赤ら顔が、最初に見たポーカーフェイスに早変わりしたせいで、食いつくことができなかった。

(ああやって逃げられると、追いたくなるのが人情でしょ)

 今までは追いかけられる専門だった私に、追いかけられてる男、今川真人(いまがわまさと)、経営企画部部長で40代のバツイチ。

 知り合いの男性社員からの情報だから、やけに簡潔。これが女子なら、誕生日や好みの料理なんかを調べ尽くした情報が手に入るハズだけど生憎、仲のいい女子はいない。彼氏をとったとらないで以前揉めて以来、面倒くさいのであえてひとりきりでいる。

 「あ~もぅ、気になってしょうがないよ」

 周りは会長の孫娘の私を恐々と扱うのに、唯一私を叱ってくれた人。私のバックグラウンドじゃなく、私自身を見てくれる気がした。

 見た感じは融通きかなくて、頭が固そうなイメージ。だけど何かがきっかけで固い頭にヒビが入って、ひょっこり可愛い顔を出す。

 ――素の今川さんが見たい。

 そう思って接触できる時間帯のお昼休みに社内を駆けずり回り、あちこち捜索してみたけど、今日も会えず仕舞い。そしてとうとう、一週間が過ぎようとしていた。

 しょうがない、最終兵器を投入するしかないか――奥の手でとっておいたんだけど、背に腹は変えられない。恋は戦争なの、手段を選んでいられないわ。
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