ハツコイ
人の気配のない非常階段。




そこで、芽衣ちゃんは立ち止まった。



「柚奈ちゃんてさ、大人しそうなカオして、結構大胆なことやっちゃってくれたよね。」




突然、訳のわからないことを言われた。




「…何のことを言ってるの?」




すると、私がとぼけたフリをしたと思ったのか、芽衣ちゃんが不機嫌な表情でこちらを向いた。




「何それ。何なの?あたしが琉偉くんに電話した時、あんたのエロい声聞かされてさ!愛されてるアピールだか何だか知らないけど、随分なやり方してくれたわね。」



「ちょ、ちょっと待って。琉偉の番号知ってるの?」




「は?知っててあんな声聞かせてきたんじゃないわけ?」




あ、あの日…



琉偉に抱かれていた時に鳴ってた着信が…芽衣ちゃんだったの?




あの時、琉偉は電話を切ってたはず。




もしかして、間違って“通話”になっちゃってたって…こと?




「…まあいいわ、そんなことは。だって、思わぬ収穫できちゃったから。」




怒っていたかと思えば、今度は突然、不敵な笑みを浮かべた芽衣ちゃん。




「柚奈ちゃん、琉偉くんから聞いてなかったんだぁ?あたし、琉偉くんともう何度も電話してるのにー。」




確かに、知らなかった。




琉偉は、何も言わなかったから。




芽衣ちゃんと何度も電話してるなんて…私……




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