いちばん近くて遠い人
「今、事務所にいるのは隼人だけだな。」

 私の前の席に座っていた人が立ち上がった。

「よろしく。早川隼人です。
 こんな美人が前に座るんじゃ緊張するな。」

 照れたように頭をかく早川さんは笑うと目じりに笑いじわが出来て優しそうな印象を受けた。

 席の配置はこうだ。
 私の右隣りは今は営業に行っているらしい野々村さん。

 私の正面は早川さん。
 そして加賀さんは残りの席にいない会ったことのない人の説明をした。

「隼人の隣の奴も今は外に行ってる。
 またすぐにでも接する機会がある。
 紹介はその時に。
 メンバーはこれで全部だ。」

 その居ない誰かは早川さんの隣で私から見て右斜め前。

 そして私の左隣り。
 早川さんとも隣の、メンバーを見渡せるようにこちらを向いて座る俗に言うお誕生日席なのが加賀さんだ。

 この5人が加賀さんと加賀さん直属の部下で主に私が一緒に仕事をする人。

「さて。さっそく事務処理をやってくれ。
 あぁ。ちょうどミッチーが帰ってきた。」

 ミッチー…………。

 加賀さんの視線の先を追って納得した。
 それは野々村さん。

「事務処理?
 オッケー。ちょっと待ってね。」

 戻って早々に頼まれたのに嫌な顔一つしない野々村さんに頭を下げた。

「野々村さん。お願いします。」

 顔を上げると目の前には苦笑する野々村さんがいた。

「ほら。忘れてる。美智でお願い。」

「あ、それなら僕も隼人で。」

 便乗した早川さんまで名前で呼べと言う。
 変わった人達だ。

『加賀くんみたいな腹黒い奴によくついて来れるだけはあるよ。』

 岩城様の言葉を思い出してクスリと笑った。

「あ、笑った。」

 隣で嬉しそうに美智さんが言う。

「うわ。笑顔いい!」

 はにかんで隼人さんが褒めてくれる。

「魔女も笑うんだな。」

 鼻先で笑った加賀さんも気のせいか嬉しそうで。

 今日はなんだかおかしな日だ。
 まるで陽だまりの中にいるようだった。









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