いちばん近くて遠い人
12.ノーブランドの男
「悪い。今日はやめとく。」

 口紅でゴテゴテした艶かしい唇が嫌でも目に入って興が削がれた。

「じゃせめて寝ていかない?」

 女が引き止める言葉をさらりとかわす。

「いや、帰るよ。」

「いつもそう。泊まっていけばいいのに。」

 女は不満そうな声を出している。
 ここも、もう潮時かな。

「シャワー借りる。」

「うん。」

 俺が出た部屋で女は不満を口にした。

「もう。素っ気ないんだから。」


 女のアパートを出ても、いつもより早く帰れた時間を持て余していた。

 仕事は嫌いじゃない。
 やればやっただけの成果がおのずと付いてくる。

 だからって仕事人間だったつもりも無かったが………。
 ついつい足は会社に向かっていて、仕事しかないのか俺は、と嘲笑した。

「え、あれ?加賀さん?」

 声をかけられて顔を上げると驚いた顔をした南が立っていた。






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