いちばん近くて遠い人
 モデルルームの戸締りなどをやってから行くから先に戻ってろと言われ、営業車まで歩く。

 途中、鍵がないことに気づいて、戻ろうかと悩んでいるところで声をかけられた。

「南!」

 声がする方へ振り向くとまた懐かしい顔がそこにあった。

 濱田大河。短大の頃の知り合いだった。

 その周りに数名いる人は知らない人だ。

「ヒュー。すっげぇ美人じゃん。」

「だろ?
 連れて歩くのに自分のレベルが上がる気がするんだ。」

 今日はこんなのばっかりなの?
 トラブルはまとめてやってくるっていうセオリー?

 どんどん近寄ってくる濱田くんとその他数名。

 後退りしつつ「どうしてここにいるって分かったの?」とよく分からない質問をした。

 もう後退り出来るスペースは残っていない。
 壁に追い込まれて逃げ場を失ってしまった。

「調べたんだよ。
 で、会社に電話したらここだって言うからよ。」

 答えたのは濱田くんの隣にいた人。
 どう見ても堅気の人じゃない。

「じゃこの女でチャラってことで。」

 濱田くんがそう言うとさっきの人が念押しする。

「いいのか?
 風俗とかに売り飛ばしても。」

「いいんだ。いいんだ。
 付き合うには金がかかりそうだろ?
 友達としてなら鼻が高い。
 その程度しか利用価値のない女だから。」

 今日は本当、なんなの!
 八つ当たり気味に睨みつけても笑われるだけ。

 加賀さん……早く………。

「おい。お前ら。
 警察を呼んでやったからありがたく思えよ。」

 すごい形相で立っている加賀さんを見て、男達は舌打ちをして去っていく。

 濱田くんは「え?こいつ連れてかないの?そしたら俺の借金は?」と動揺しながらも慌てて走って逃げていった。



 ため息を吐いた加賀さんに抱き寄せられて、よろめくと腕の中に収まった。

 そのままお説教を聞くはめになった。

「お前の知り合いはどうしてこうも厄介な奴ばかりなんだ。」

 ごもっともだ。

「……大丈夫です。
 もう友達も、知り合いとも呼べるような人もいないので。」

 また頭を撫でられて情けないやら怖かったやらで泣けそう……。

「大丈夫なことあるか。
 お前が閉じてるからいけないんだ。
 だから変な奴しか寄って来ないんだろ。
 心を開けよ。」

「……それは、ご自分のこともおっしゃってます?」

 加賀さんと違って人を見る目も無ければ、そもそも仲良くなれる機会もない。
 何もしなくても一方的に嫌われて………。

 会う人、会う人があんな風で、だから私と知り合いの加賀さんだって変な奴ということになる。

 変な奴……ではあるんだろうけど。

「は?俺には心、開いてただろ。」

 何をおっしゃっているのか………。
 おかしくて涙なんて引っ込んでしまう。

「………ご謙遜を。」

「ハンカチ。貸してくれた。」

「そんなことで。」

「ばーか。
 あれ、結構感動したんだからな。」

 どこまで本当なのか分からない。
 けれど加賀さんに沈んだ心まで救われているのは確かだった。










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