王子様と野獣


短期バイトだったはずの仕事が終わってからも、何かしらイベントをするというときには呼び出された。

「お前、しっかりしている割に偉そうじゃないからいいな」なんて言って、にかっと笑う。
いいように使われていたなとは思うけれど、頼られるのは嫌いじゃない。
それに、人が何を考えているのか気にする性格の俺にとっては、自分の意思がはっきりしている人というのは付き合いやすいのだ。

そうして親しくなっていくうちに、田中さんが社長の息子だということを知った。
それもあって、あっという間に本部長まで出世していく。

「な、お前、うちの社にこいよ。お前の夢、かなえてやれるぞ」

俺の夢は、父が経営する【宴】がいつまでも繁盛するよう、街を活性化することだ。
まちづくりと言えば、役所だろうということで当初公務員を志望していた俺に、彼が言った。

「役所なんて入ったって、お偉いさんの意向で振り回されるんだからつまんねぇって。俺について来いよ」

田中さんは不思議な人だった。
能力的には不安な部分もたくさんあるのに、なぜかやってのけるんじゃないかという気持ちにさせてくれた。

「……考えてみます」

実際、そこから通常の就職活動を俺はしたわけだけど、結局田中不動産に入社することを決めたのは自分の意思でだ。

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