王子様と野獣


「美麗ちゃーん」


おどけて美麗さんを自分のもとに引き寄せる遠山さんは、実は彼女の気持ちを一番考えているのかもしれない。

美麗さんはどこかホッとしたように息を吐き出して、「今日はお料理がおいしいところを予約したんで、楽しみにしていてくださいね」なんていつものそつのない微笑みを向ける。

なんとなく取り残された私に、あさぎくんが近寄ってくる。


「ごめんね、待たせて。それに、今日は参加してくれてありがとう」

「遠山さんの送別会ですもん、参加しないわけないです」

「派遣だから……って飲み会系には一切参加しない人もいるからさ。会社になじもうとしてくれて嬉しい」


それは社交辞令なんだと思うけれど、微笑みかけられて私の胸はきしんだ。

誰にでも平等に向けられる微笑み。それでも、嬉しい。

美麗さんには悪いけど、振られたというのならやっぱり私はホッとする。
だって私も、あさぎくんが好きなんだもん。


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