運転手はボクだ
「はぁ、着いたよ、ここだ」

「はい、お疲れ様でした」

エンジンを止めた。
車のタイヤが踏みしめる砂利の音を聞きつけたのだろう、建物の中から人が出て来たのが見えた。
丁度車から降りたところだ。

「やあ、成君、いっらしゃい。長旅で疲れたでしょ」

「吉田さん、随分御無沙汰してしまってすみません。今日はお世話になります」

「たまにはゆっくりしていくといい。あ、こちらは?紹介してよ」

顔を向けられた。

「はい。羽鳥さんです。なんて言ったらいいか…、出会ったばかりの人なんですが、無理にお願いして急遽来てもらいました」

「えみちゃんていうんだよ。ぼくがいっしょにいきたいっていったんだ」

「そう、えみちゃん。よろしく、吉田です」

「羽鳥です」

…私の存在はどう映っているのだろう。

「…千歳君、もうこんなにしっかりして来たんだね。人見知りもしない」

「はい、4歳になりました」

「…うん。さあ、入って。今日は他の宿泊客はとってないんだ」

「お世話になります」

ご主人に頭を下げた。

「小さい彼に懇願されたんだね?」

「え、あ、…はい、んー、はい」

「フフ、中に女房も居るから、先にご飯にしようか。
成君、どう?出掛けてから、戻って入浴した方がいいだろ?」

「そうですね。はい、そうします。いいよね、恵未ちゃん」

「はい」

私は特には。

「まあ、まだ、早いし、一服しよう。お茶でも入れよう」

「はい」

鮫島さんとオーナーは親しいようだ。知り合い?って感じ?

「入ろう」

「あ、はい」

「吉田さんは親父の知り合いなんだ。親父の葬儀の時もお世話になったんだ」

「そうなんですか」

なる程…。お父様ととても親しい方なんだ。成君って呼ばれてたな。


「はい、どうぞ…」

中に入ると、夕食の準備をしていた奥さんが出てきた。
大きなテーブルのあるダイニングに案内された。
優しそうな奥さんは、うちで育ててるのよ、と、香りの良いハーブティーを入れてくれた。
一口、口にすると香りが広がり…はぁ、本当…安らぐ感じがした。千歳君はフルーツのミックスジュースだ。桃の香りがした。甘くて美味しいと、気に入ったようだ。奥さんが、そう、美味しい?と、頭を撫でた。

「家だと思って、ゆっくりして行ってね?あ、成君、ちょっといい?」

「はい?」

奥さんに呼ばれてキッチンの中に入って行った。…なんだろう。

「ねえ…お部屋、どうする?」

「え゙?」

「部屋。一緒?…別?」

「あ゙、…何を言うかと思えば、そんな関係ではないですから。当然、別ですよ。空いてますよね?今日は俺達だけだって、吉田さんが言ってましたよ」

「空いてるわよ」

「別で。当たり前です」

「フフ、解りました」

「あの、妙な事は…」

「解ってるわよ。こういうのはね、周りがお節介しないと進まないモノよ」

「いや、だから、違いますって…。何でもないんです」

「でも、随分懐いてるようじゃない?」

ダイニングに目を向けた。ね?と言わんばかりの顔だ。

「はぁ…、本当に、何でもない人で、ちょっとした事で、会って間もない人なんですよ。千歳が一方的に懐いてしまって…好きみたいで。
急に我が儘を言うもんだから、だから無理を承知でお願いして。有り得ないのに一緒に来てくれたんです。うちの事情を知ってるから」

「そう。ちゃんともう話してるのね」

「え?」

「ううん、解ったわ。部屋の鍵、渡しておくから。これと、これね。どっちも同じような部屋だから。あ、因みに奥にファミリー向けもあるけど?」

はぁ…だから違うって…。

「あの、彼女に妙な事は言わな…」

「解ってる」

はぁ…どうだか…。
勝手に言われては困るんだ…。
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