悪しき令嬢の名を冠する者
「黒いローブの男を見ました。あれがシュプギーですか?」

「ええ」

「何を話されたんですか?」

「敵ではないみたいよ」

「彼がそう言ったんですか?」

「いいえ」

 フィンはそれ以上、詰問してこなかった。何か思うことがあったのだろうか。口をへの字に結び、考え事をしている。

 シュプギーはいつも傍にいると言っていた。恐らくレジスタンスの中に紛れているのだろう。

 けれど〝いつも〟と口にした。それは恐らく私と近しい人物を指す。〝いつも〟ならば? 私の傍に在るのは、いつだってフィンだ。幼い私を嫌いながらも守ってくれていた彼。

 あの手紙が〝守りたい〟という意思表示なら、彼はまさに〝シュプギー〟の人物像に近い。

 しかし、それならば何故、私をレジスタンスに誘うようなマネをしたのだろう。そこから導き出される答えは「≠」。

 チラリと見上げたフィンは相変わらず何かを逡巡していた。
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