悪しき令嬢の名を冠する者

*side レイニー*【完】

 *

「生きていたのね」

「ああ」

「フィンも……本当に良かった……ベルナールとロビンも無事?」

「皆、無事だよ」

「あの状況から生きて会えるなんて思わなかったわ」

 胸を撫で下ろす私にヴィンスが目元を緩める。十年近く経っても、あまり変化のない容姿は羨ましいばかりだ。

 フィンも目元の皺が増えたくらいで、それほど差異はないように思える。

 二人が私の目の前にいることが嘘のようで、緩む口元を諫めるのが難しかった。

「ヴェーン侯爵のおかげだよ」

「お父様の?」

 娘をも殺そうとしていた父を思い出し身震いをする。

 何度思い返しても苦い記憶しかない〝あの日〟。正直、考えることも苦痛でしかなかった。
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