悪しき令嬢の名を冠する者
「あの酒場で〝フェアレディ〟なんてレイニー様以外にいないということで受け取ってきたのですが、心当たりはありますか?」

「残念ながらないわ」

「だと思っていました。封蝋も見たことがありませんし……なんですかね?」

「読んでみないことには何とも言えないわ。手袋を持ってきて」

「はい。此方に」

「用意がいいわね」

 差し出された白手袋を受け取り手に嵌める。彼もそれに倣うように即座に着用した。

「薬品の香りはしないものの念には念をと思いまして。お貸しください。俺が開封します」

「お願いするわ」

 この手紙に何かが仕掛けられているとは考え難い。しかし〝もしも〟の可能性は、いつでも付き纏うのだ。

 少し距離をとってナイフで開封するフィンを私はジッと見つめた。

「特に何もないようですね。どうぞ」

「ありがとう」
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