オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


部屋に招待される流れになったのは、会社からの帰り道でだった。

松浦さんが、週に一、二度私を待ち伏せするようになり、約一ヵ月。
ただ一緒に帰るだけのときもあれば、夕飯を一緒に済ませることもあったり、様々だ。

それだけ時間を共有すれば、おのずと警戒心なんてものは解けていくし、私のなかでの松浦さんはもう、〝社内でおかしな噂をされるチャラい男〟というよりは、〝なんでも気兼ねなく話せるチャラい男〟という印象に変わっていた。

……というか。松浦さんは、本気で私を口説くつもりがあるんだろうか。

そう首を傾げたくなるほどに、松浦さんの言動の裏に下心は感じられなかった。

一度、駅の階段で躓いてしまい、それを支えてもらったときだって、松浦さんの手は本当に私を支えただけで、すぐに離れて行った。

ぎゅうぎゅうの電車のなかで密着してしまったときだって『ごめん、友里ちゃん』と駅に着くまで何度も謝っていた。

本当にこれが、口説き落としては振る、という恋愛を繰り返してきた百戦錬磨の松浦さんなんだろうか。私がそう疑問を持つのも当然だと思う。

そんな、ただの友人のような同僚のような時間を共有して、なんでもない話題も気兼ねなく話せるようになったからなのか。

『松浦さんって、どんな部屋に住んでるんですか?』

そんな問いが無意識に出たのは。
ハッとして、発言を取り下げようと口を開いたけれど、松浦さんのほうが一足早かった。

『見にくる? 友里ちゃんならいいよ』

これまた、下心なんてちっとも覗かない笑顔で言われたら、変に意識して断るほうがおかしく思え、戸惑いながらも頷いた。

松浦さんは、自分に気持ちが移ったことを確信してからじゃないと手は出さないと言っていたし、そのことも安心材料のひとつとなり、今日の帰りに松浦さんのお部屋にお邪魔する運びとなったのだった。



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