オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


「そういえば、この間友里ちゃんが話してた本、おととい本屋で見つけた」

話しかけられ、ハッとして答える。

「ああ、〝松浦くん〟のですね。今、人気みたいですから。買ったんですか?」

「まさか。読後、なんとも言えない気持ちになるのがわかってるし」
「あれ読んで松浦さんも純愛に目覚めればいいのに」

嫌味をこめて言うと、松浦さんはなぜか黙った。
どうしたんだろうと横目で窺うと、松浦さんがゆっくりとこちらを振り向くところだった。

にこやかな眼差しに熱がこもっているように思え、息を呑む。

「そしたら友里ちゃんに責任とってもらおうかな」

〝いいですよ〟なんてうっかり口に出そうになったのは、今日が満月だからだ。
〝今日も好きじゃないです〟と言いだせなかったのだって、きっとそう。

天文学的な、なにか不思議な力が働いたに違いない。

誰にするでもないいいわけを考えながら、夜空にぽっかりと浮かぶ満月を睨むように見上げた。

〝最低〟だったはずの松浦さんが、そんな風には思えなくなっていた。


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