オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


じっと見て言われ、咄嗟に目を逸らす。

まさか顔に出ていたなんて思わなかったし、それを気づかれていたとも思っていなかった。

この人、結構洞察力が高いんだっけ……と考えながら「別に」と笑みを作った。

「そんな顔してません。それに、それだけを確認するために食事中だっていうのにわざわざ追ってきたんですか?」

松浦さんのA定食はまだ半分以上残っていたはずだ。それなのに、これだけのために席を立つなんて……と笑うと、松浦さんは表情を緩める。

「まぁね。俺とは関係ないことで傷ついてるなら付け込むチャンスだから喜ぶけど、俺の言葉で傷つけたりしたら攻略難易度上がっちゃうし」

一貫して最低な発言をする松浦さんには、もう呆れて「上がったほうが楽しいんじゃないですか」と笑う。

それから、松浦さん相手になにを隠す必要もない気がして、そっと口を開いた。

「傷ついたのは言う通りです。でも別に、松浦さんのせいじゃありません」

食堂入口の横の壁に背中をトンと預け、目を伏せる。

「松浦さんの言った〝身に覚えのない好意〟も〝身に覚えのない悪意〟と変わらず迷惑だって言葉に、自分の状況を重ねあわせてその通りかもしれないって思っただけです」

視線をゆっくりと上げ、目を合わせて微笑んだ。

「私、もうとっくに振られてるんです。それでも好きでいるなんて、相手からしたら迷惑でしかないでしょうね」

見上げる先、松浦さんの顔に驚きが広がっていくのがわかった。





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