愛のない、上級医との結婚


本当は、少しだけ嬉しかったのだ。
2年前に一度話しただけだけど、私にとって高野先生は少し歳上の何だかんだ面倒見の良い上級医(立場が上の先生)だった。


あの時はもう少し砕けた口調だったから、今もそういうので構わないのだけど、やはりお見合い相手となるとそうもいかないのだろう。


足を組み直して、高野は口を開いた。


「顔合わせというと、もう少し時間を取ってお互いを知るということになるのでしょうが、その時間も取れなそうなので……単刀直入に申し上げると、このまま理事長の申し出を受けようと思ってます」


射抜くような視線に少しだけドギマギして、私は次いで告げられた言葉に顔がサッと赤くなる。


「受けるって……高野先生、それは」


「君と結婚する、という意味だ」


「……っ」


う、うわ、目の前でいきなり言われると反応に困る。
何も言えなくなっていると、ついと目を逸らして高野は続ける。


「……君がいま、そういう人が居なければ、の話だけれど。理事長に無理矢理という話だったならば君から断ってくれて構わないが」


どうする、と言われて、恥ずかしさに悶えながら私は全く断る気が無かった自分に改めて気づく。


「いえ、……よろしくお願いします」


父親が持ってきた縁談を、昔から私は断る気なんて無かった。それが、昔、ほんの少し憧れた貴方だったなら……尚のこと。


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