だったら俺にすれば?~オレ様御曹司と契約結婚~
ドサッと大きな音がしたが、動けなかった。
パウダールームを出たすぐ目の前の通路で、男性が、長身の派手な美人に、平手打ちをされているという、恐ろしい場面に遭遇してしまったのだ。
「さいっっっていっ! あんたなんか、いつか女に刺されて死ねっ!」
上品なワンピースを着た、長身の美人は、見た目にそぐわない大声で恐ろしいことを叫ぶと、くるりと踵(きびす)を返し、カツカツとヒールの音も高らかに階段を駆け下りていった。
明らかに、男女の修羅場だ。だが問題はそれだけではない。
「えっ……嘘……」
玲奈は、女性に頬を張られてもなぜか堂々としている、長身の男を見て、ポカンと口を開けてしまった。
「南条(なんじょう)さん……?」
「ん?」
玲奈に南条と呼ばれた男は、顔をほんの少し動かして、ドアの前に立ち尽くす玲奈を目の端に映す。
「――お前、俺の知り合い?」
頬をかすかに赤くしたその男は、長い指先で頬のあたりを撫(な)でながら、玲奈をじっと見つめた。