初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
アントニウスの姿はジャスティーヌと談笑するロベルトの隣にあり、探さずともすぐにアレクサンドラの目に入った。
「ジャスティーヌ」
 アレクサンドラが声をかけると、ジャスティーヌがすぐに振り向いた。
「アレク!」
 ジャスティーヌも一人二役でロベルトと過ごすことに少しは慣れて来たのか、以前のような表情の硬さもなく、アントニウスとも談笑していた。しかし、ジャスティーヌとアントニウスが話すことをロベルトが面白く思っていないことは、アレクサンドラの目には明らかだった。
「どうも、私の大切な花を掠め取ろうとする輩が多くて困る」
 聞こえよがしに言うロベルトに、アレクサンドラは思わずロベルトとアントニウスの顔を見比べてしまった。
「殿下から花を盗もうなどと、そんな大それたことを考える輩がこの国にいるとは思えませんが・・・・・・」
 アレクサンドラの言葉に、ロベルトが珍しく同意した。
「確かに、この国にはいない。だが、この国にたまたま遊びに来ている者なら考えられると思わないか?」
ロベルトは言うと、チラリとアントニウスの方に視線を走らせた。
「ああ、ちょうどよかった。ロベルト、君がその話題を僕に振ってくれて嬉しいよ」
 もう少し反応に困るかと予想していたロベルトは、嬉しそうに言うアントニウスに首を傾げそうになった。
「ロベルト、君にも、それからジャスティーヌ嬢に、アレクシスにも承認になって貰いたい」
 アントニウスは言うと、アレクシスの肩を親しげに抱いた。
「いまそこで、シュタインバーグ伯爵から、お嬢さんのロザリンドの熱心な売り込みを受けたんだが、丁寧にお断りしてきたところなんだ。なあ、そうだろアレクシス」
 アントニウスに促され、アレクサンドラもコクリと頷いて見せた。
「それがどうしたというのだ?」
 つまらなさそうにロベルトが言葉をはさむと、アントニウスが極上の笑みを浮かべた。
「ここからだ大切なところなのさ、ロベルト。伯爵にも宣言してきたのだが、僕はアレクサンドラ嬢に一目ぼれしてしまったんだ」
 ギョッとしたジャスティーヌが体をビクンと振るわせ、驚いたロベルトがジャスティーヌの方に向き直った。
「どうしたんだい、ジャスティーヌ?」
「いえ、突然のことで驚いてしまって・・・・・・」
「君が驚くことではないだろう?」
 ロベルトの問いに、ジャスティーヌは頭を横に振った。
「ですが、アレクサンドラは陛下のお心に従って、殿下の見合い相手に選ばれておりますから」
「お優しいジャスティーヌ嬢、私の心配はご無用ですよ。ロベルトがアレクサンドラ嬢に熱を上げていないことも知っていますし、アレクサンドラ嬢との橋渡しは心の友、アレクシスが引き受けてくれそうです。ただ、一つだけ問題が・・・・・・」
「問題?」
 ロベルトが興味深げに問いかけた。
「シュタインバーグ伯爵のご令嬢とアレクシスの友人のジェームズを幸せにしてあげる必要があると言ったら、分かってもらえるかと」
 『あー』と、声には出さなかったものの、ロベルトも二人のことは知っているようだった。
「ジルベールは頑固者だが、それなら手を貸すことはできるかもしれない」
 ロベルトとアントニウスは会話に夢中になっていたが、ジャスティーヌは不安を隠すことができずアレクサンドラの方に視線を何度も走らせた。
 アレクサンドラは少し顔をひきつらせながらも、ジャスティーヌを心配させないようにと、必死に笑顔を浮かべて見せた。
 結局、次の舞踏会でロベルトがアレクシスと一緒にいるジェームズに声をかけ、適当に会話をした後、ロベルトが伯爵にジェームズを売り込み、更に、ジェームズは三男なので養子に貰えば娘を嫁に出さなくて済むうえ、家の跡取りの心配もしなくて済むという一石二鳥の提案をするという安易な計画だったが、それはやはり王太子という立場をもってすれば、かなり効果を持ったアドバイスであり、それでも難色を示すようなら、二人が深い仲だということをロベルトも知っているというニュアンスで脅しをかけるという、少し悪魔的な計画でもあった。
 結局その晩は、ロベルトとアントニウスに従い、ジャスティーヌもアレクサンドラも他の誰とも話をすることなく、アレクサンドラの傷を心配するジャスティーヌをロベルトが尊重してくれたこともあり、夜も早いうちにジャスティーヌとアレクサンドラは帰宅することができた。

☆☆☆


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