大天使に聖なる口づけを
「どうやら決勝は、リンデンの貴公子と、よそから来たっていう見慣れない美丈夫が競うらしいぜ」

何もしないでも自然にもたらされる情報――噂話によって、エミリアは模擬試合の決勝戦が、アウレディオとアルフレッドでおこなわれるらしいことを知った。

そこに至るまでの経過で、アルフレッドの騎士団入団はほぼ確定的だとは言え、やはり最後は勝ってしめ括りたいだろう。

「ふーん。二人ともやるもんじゃない」
「これはどっちを応援したのものかねえ。一躍時の人となったアルフレッドかい? それともやっぱりリンデンの貴公子アウレディオかい? うーん迷うねえ」

アマンダ婦人の悩みは、そのままエミリアの心だった。

試合が終わるたびにわざわざ報告にやってくるアルフレッドに関しては、もう私設応援団のような気持ちでいる。アウレディオについてもそれは同様なのだが、彼は昼食の時間にも、エミリアたちのもとには近づかなかった。

『一緒に行こうって誘ったんだが、用事があるとか言っていなくなったんだよな』
『そう。じゃあ仕方ないわね』
アルフレッドもフィオナもアマンダ婦人も、あまり気にしている様子ではなかったが、エミリアは気になって気になって仕方がなかった。

なぜなら朝から一度として、アウレディオがエミリアと視線をあわせようとしないのである。

いつもはどこにいても、口以上にあの大きな瞳で、エミリアに話しかけてくるアウレディオが、今日は目をあわせようともしない。

(どうして? 何で? 私、何かした?)
気になって仕方がないが、わけを尋ねることもできない。

(こっち向いてよ、ディオ)
こっそりと願う気持ちはまるで片思いのようで、切なくて苦しくて泣きたくなる。

(こっち向いて)
今まで当たり前のように向けられていた視線がなくなるということが、どんなに辛いことなのかをエミリアは知った。
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