大天使に聖なる口づけを
「どどどどうしてぇ?」
心臓が口から飛び出しそうな思いで、エミリアは叫んだ。

(フィオナに手伝ってもらうだなんて、私ディオに言ってない! なのにどうして? それも近衛騎士団直轄? しかも担当ランドルフ様? ……まさか……まさか!)

口もきけずに震えるばかりのエミリアに背を向けて、アウレディオは、もうさっさと部屋から出ていこうとしている。

「ずいぶん手回しがいいのね」
フィオナの呟きには、今度はサッと片手を上げる動作だけで返事した。

扉を開く直前に立ち止まり、もう一度だけ最後にエミリアをふり返る。

「ランドルフ様は時間に厳しい方なんだそうだ。少しでも心証を良くしたいんだったら、くれぐれも集合時間にだけは遅れないでくれよ」
何かを含んだような表情で言いたいことだけ言うと、そのままエミリアの返事も待たずに行ってしまった。

「私……私……ランドルフ様の話なんて、一言もしてないのに!」
エミリアの叫びに感慨深く頷きながら、フィオナは艶やかな黒髪をサラッと一房、耳にかけた。

「やっぱり……さすがオーラの見えない男。侮れないわ……」
エミリアは泣きたいような気持ちで、フィオナにすがりついた。
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