大天使に聖なる口づけを

7 

その日の夕食の席も、父と母と共に、まるで当たり前のようにアウレディオが同席していた。

「それじゃあ今日は、もうかなり親密になったのね?」
昨日とはまた違うパイを切り分けながら、母は嬉しそうにニコニコ笑う。

「だったらあとは、彼がミカエルかどうかを確かめて、エミリアがキスするだけね」
鈴を転がすような声に、エミリアとアウレディオの手が、同時にぴたりと止まった。

「「確かめる方法があるの?」」
問い質す声まで重なってしまう。

母はきょとんと、いかにも不思議そうに翠の瞳を瞬いた。
「もちろんあるわよ。なあに……? ひょっとして私ったら言ってなかった?」

「言ってないわよ!」
今にも掴みかからんばかりの勢いのエミリアを、アウレディオが手で制した。

「何? その方法って……」
母はちょっとホッとしたように、エミリアからアウレディオへと視線を移す。

「うん。ミカエルは背中の羽と羽の間、つまり肩甲骨の間ぐらいに赤い痣があるの。星の形に似た珍しい痣だから、きっとすぐにわかると思う……」
頭を抱えたまま微動だにしないエミリアと、ふうっと大きな溜め息をついたアウレディオに向かって、母は最上級の笑顔を向けた。

「目印がなかったら困るでしょう? この人かって思う人に、エミリアが次々とキスしなくちゃいけなくなるものね……どう? これで明日にはどうにかなりそう?」

がばっと顔を上げたエミリアは、声を上げる前にアウレディオの大きな手で口を塞がれてしまった。
おかげで母に強い非難の言葉をぶつけることができない。

その代わり、誰にも聞こえることはない心の中だけで、思いっきり叫ぶ。
(お母さんって本当は、天使の顔をした悪魔なんじゃないの!)

絶対に声に出したつもりはなかったのに、怒りに震えるエミリアの肩を、宥めるようにアウレディオが叩いてくれた。
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