イジワル専務の極上な愛し方
徒歩五分ほどで、会社に着いた私たちは、そのままエレベーターで地下へ降りる。

そこは駐車場になっていて、専務は真っすぐに自分の車へ向かった。

「専務……。そろそろ、手を離してもらえませんか?」

お店を出てからずっと、彼は私の手を握っている。ここまでの間、社内の誰かに見られていたらどうするんだろうと、密かに心配になっていた。

「いいよ。もう車に着いたから」

パッと手を離した専務は、少し意地悪げな微笑みを向ける。そんな彼に、私は戸惑うばかりだった。

どうして専務は、私にここまでしてくれるんだろう。

「ほら、乗って」

専務が助手席のドアを開けてくれたけれど、その車を見て目を丸くする。

なぜなら、超がつく有名な海外の高級車だったから。おまけに、左ハンドルらしい。

「どうかした?」

固まっている私を、専務は訝しげに見た。彼の視線に我に返った私は、恐る恐る尋ねる。

「い、いえ、なんでもないです。あの……、本当に乗ってもいいんですか?」

こんな高級車に乗ったことは、今まで一度もない。緊張でいっぱいになる私を見ながら、専務はクックと笑った。

「当たり前だろう? 今さらなにを言うんだよ。ほら、乗って」

「はい……。じゃあ、お言葉に甘えて……」

静かに車に乗り込むと、ふわりと上品な香りがした。柑橘系に近い匂いかな……? 芳香剤なんだろうけれど、こんな品のある香りもあるんだと、専務の好みに感心する。

レザーシートは、体が包込まれるように柔らかく、乗り心地がいい。シートベルトを締めていると、専務も運転席に乗り込みベルトを締めた。

「よし、行こうか。家の場所を教えてくれる?」

「本当に、家まで送ってくださるんですか? 駅まででも大丈夫ですが……」

ここからだと、車で一時間はかかる。申し訳なさすぎて、やっぱり抵抗があった。

「駅じゃあ車で三分くらいだろ? 意味ないじゃないか。それに、今夜は田辺さんに話したいことがあってね」
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