憧れのアナタと大嫌いなアイツ
迎賓館でのアレンジメントの日
トラックいっぱいの花達を搬入して渡された企画書通りにアレンジを加えながら配置していると


「お世話になります」

「ひゃ」


突然頭の上から聞こえた声に驚いて変な声が出た
急に強く打ち始める胸を誤魔化すようにゆっくりと息を吐く


「あぁ、ごめんなさい、驚かせてしまいましたね」


頭上の明かりが逆光になって顔が見えないけれど柔らかな物腰に少し落ち着いて立ち上がると間合いを取る為に2歩下がって頭を下げた


「こんにちは、お世話になります」


恐る恐る見上げると声の主はモデルさんかと見紛う程端正な面立ちでサラサラの黒髪を搔き上げる長い指に見惚れて胸の鼓動が煩くなる


「これ、可愛いアレンジだね」


新婦の椅子に付けた小さな薔薇のアレンジを指差す彼


「あ、ありがとうございます」


自分の作品を褒められた喜びよりも彼の声が低くくて甘いことに何度も胸がキュンとする

右手にハサミを持ったまま暫くお喋りに夢中になっていると


「藤堂室長、お電話です」


ホールの入り口でスタッフの声が響いた


「すぐ行きます」


こちらに向けて軽く頭を下げると背中を向けた


離れて行く背中を見ながら胸に手を当てて深呼吸すると“大丈夫、大丈夫”とおまじないをかけるように呟いた


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