冬至りなば君遠からじ
冬至のお別れ
 若松神社の境内には先輩はいなかった。

 スマホに連絡を入れても既読はつかない。

 僕はブランコを揺らしながら待った。

 ふと、思い出したことをスマホで検索した。

 今日は冬至だった。

 昼間が一番短い日、それは今日だったのだ。

 時間がないんだ。

 僕は神社を出て笹山公園へ向かった。

 石段を駆け上がって展望台に出る。

 いない。

 先輩はコンクリート階段に腰掛けて僕を迎えてはくれなかった。

 期待していたことが起こらなくて、一気に疲れが来てしまった。

 僕は走って荒くなった息を整えながら階段に腰掛けた。

 お尻が冷えて筋肉が固くなる。

 血の巡りがおかしくなって頭を下げて気分が落ち着くのを待った。

 動悸が激しい。

 ますます気分が悪くなる。

 吐きそうだ。

 また胸の奥にぽっかりと穴が空いていく。

 日が傾いていく。

 心の穴に夕闇が入り込んでくる。

 暗い影が僕の中に満ちていく。

 もう、だめなのか。

 もう、会えないのか。

 僕は祈った。

 僕の命と引き替えでもいい。

 もう一度会わせてくれ。

 僕は背中を曲げて頭を抱えた。

 悪魔がいるのなら取引をしようぜ。

 今こそおまえの出番だぞ。

 何も起こらなかった。

 北風は枯れ葉を鳴らして吹き抜けていくだけだった。

 絶望的な気持ちを抱えながら、夕暮れを背景に影を濃くしていく可也山を眺めているしかなかった。

 だめなのか。

 会わせてくれよ。

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