春を待つ君に、優しい嘘を贈る。


この時の私は、油断していたのかもしれない。

そうでなければ、あんな事が起こるはずがなかったから。


「柚羽っ…!」


「(っーー!?)」


突如倒れてきた何枚もの木の板を避けようと、聡美が私の腕を引いて後退る。

その結果、私と聡美は怪我なく無事で済んだけれど。

私たちが避けたことによって、その後ろに居た人間に被害が及んでしまった。


「っ…」


「おいっ、大丈夫か!?ーークソっ、お前らが避けたから紗羅が怪我をっ…!!」


私の腕を掴む力が、強まる。
隣にいる聡美の顔が、青くなっていく。


「嘘、でしょ……」


怪我を負ってしまったのは、細くて、白くて、綺麗な女の子。

その身を案じる男は血相を変えながら、板を退けていく。


「(さと、み…?)」


立ち上がった私は、呆然としている彼女へと手を差し出したのだけれど。

聡美は唇を開いたまま、微動だにしない。


時間が止まったかのように静寂に包まれた廊下に、何者かの足音が響く。

迷うことなく、真っ直ぐに此方へと向かってくる。


ゆっくりと振り向けば、そこには美しい男が佇んでいた。
< 11 / 381 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop